Chapter13:再会

俺はサニーゴを連れて、ペンション裏にある小さな丘にやってきた

「ねえ、ピチュー!こんな所で何するつもりなのさ?
ここには岩と雑草しか無いよ。」

ぐふふ!
それはな…"ある技"を特訓するためだぜ

「技の特訓?」とサニーゴは訝しそうな顔をした

そうだ…
鋼タイプの大技『アイアンテール』のな!

かつて、ポケッ島の英雄リザードンさんは
吹きすさぶ嵐の中、道を塞ぐ大岩を『アイアンテール』で砕き、遭難中のポケモンを救助したんだってよ


つまりこの技をマスターすりゃ、俺もあの人の強さに一歩近づけるって訳だぜ

「そう上手くいくかなぁ~?

アイアンテールって、鋼タイプの中でも相当高レベルな技だって聞くしさ?

サニーゴの言う通りかもしれん
だがよ…たゆまぬ特訓を続けていけば、いつの日かは使えるようになるはずだ
幸いこの丘には"丁度よさそうな大岩"がゴロゴロ転がってるしな!

コイツらを片っ端からシッポで砕き、
全部片付いた頃には俺様も立派な『アイアンテール』の使い手って訳だぜ!ぐふははは!

「じゃ…特訓開始だぜ!かはーーっ!」







そして時間が過ぎ…











は力尽きて芝生にぶっ倒れた









クソ硬い岩を叩きまくったおかげで俺のシッポはまるでボロ雑巾のようになっていた
だが、岩は一つも砕けなかった

畜生っ…!
それなりに体を鍛えたつもりだし、正直もう少しぐらいやれると思ってたのによ
流石に一個もダメってのは自信喪失だぜ……

「ピチュー大丈夫?
もうギブアップした方がいいんじゃない?

サニーゴが心配そうに、俺の顔を覗き込みながら言った

「ギブ」だと…?
この俺様にギブしろってのか…?冗談じゃないぜ

「たまるか……
たかが岩なんぞに屈してたまるかよ!」

リザードンさんみたいに強ぇポケモンになりたかったら、こんな所でぶっ倒れてる訳にはいけねぇんだ!

こんな岩の一つや二つ……
俺様の『アイアンテール』で粉々にカチ割ってくれる!
そう意気込んで立ち上がったものの、俺の意思とは反対に目の前が一瞬真っ暗になった

「倒れる……」
そう思った時、誰かが後ろから支えてくれた。

サニーゴだった。

「あのさ。ずっと見てて気づいたんだけどさ…
もしかして『アイアンテール』の撃ち方、知らないんじゃないの?」

撃ち方…だと!?
バカ言えよ、『アイアンテール』ってのは、
シッポで相手を力いっぱい叩くだけのシンプルかつ豪快な技だろ?

サニーゴはがっくし!とコケそうになった

「違う違う~、それじゃ『しっぽをふる』だってば
『アイアンテール』は強力な技だから、撃つにはたくさんの《Vウェーブ》が必要なのさ!」

ああ、確かペンションでそんな事言ってたな
《Vウェーブ》とやらが無いと、ポケモンはマトモに技を使えないとか何とかって

「やっぱりね…
君ってさ、ほんと何も知らないんだね。」

うっせ!
これから《シルヴァー学園》でウンと勉強すりゃいいんだ

で、マジモンの『アイアンテール』が撃つためには一体どうすりゃいいんだよ?

サニーゴは手を組んで「ウーン」と考え込んだ

「そうだねぇ……意識を集中して、
周りに"金属の粉"が漂ってる所をイメージするのさ
で、それらをたっぷり吸い込んでさ、全身に行き渡るのをイメージしてみてごらん!」

"金属の粉"をたっぷり吸い込んで、全身に行き渡る…ね。

ぐふー…
簡単そうでなかなか難しいぜ
ともかく俺はサニーゴの言う通りの状態を思い浮かべ、それに浸ってみる事にした

すると、
何と"俺のシッポ"がピカーッと輝きだした!

「それっ!それだよ!!その状態こそが『アイアンテール』さ!
スゴイ!君、素質あるよピチュー!」

サニーゴが興奮したように叫んだ

すげぇ…!さっきまでボロ雑巾のように萎れてた俺のシッポにすさまじい力が宿ってやがる…!

今ならどんな硬い岩だろーが楽々砕けそうだぜ!

俺は嬉しくなり、サニーゴに駆け寄って両手をぎゅっとつかんだ

「お前の助言のおかげで、
『アイアンテール』を習得できたぜ!あんがとよ!!」

サニーゴはちょっぴり戸惑ったように
目をパチクリさせた後、やや顔を赤くしてニヤけながら視線を逸らした

「と、とにかくさ…っ!
これできみの努力も報われたね!ピチュー!」

おう!!
よーし、見てろよ~

この輝くシッポで今度こそ岩を打ち砕いてやるぜ

俺がそう意気込むと、
サニーゴは「待って!まだやめた方が…」と何故か止めてきた

「ぐふう、何を言ってやがる…
今から岩をも砕く俺様の雄姿をお前に見せてやんぜ!」

俺はサニーゴを振り切り、一番大きな岩を目指して猛然とダッシュした

「かはーっ!」という掛け声と共に飛び上がり、
空中でクルリと一回転した後、シッポを大岩めがけて叩きつけた!

俺のシッポと岩がぶつかった瞬間バコーン!!と轟音がし、バチバチと激しい火花が飛び散った

う…
何だコリャ!すさまじい威力だぜ!

「ぶげはーーーっ!!」

俺は衝撃で吹っ飛ばされ、崖から真っ逆さまに下へ落ちた










……

ぐ…ふ……

気がつくと、俺は芝生の上に這いつくばっていた

一体どうなってンだ…
あんな高ぇー所から落下しといて怪我一つないぜ

「大丈夫か?ピチュー
あまり無茶をするもんじゃないぞ」

"聞き覚えのある声"が後ろからし、俺はビクリとしながら振り向いた

シッポに燃え盛る火を灯し、
逞しい翼を持った屈強なドラゴンがそこに立っていた

「久しぶりだな。ピチューよ
あの夜以来、行方をくらましてたと思ったら、よもやウェイブタウンに引っ越していたとはな…」

リザードンさん…げふッ!!

「憧れの人」の登場に感激するヒマもなく、俺はそのゴツい手にはっ倒された

「このバカ者が!崖から落ちる奴があるか
たまたま私が飛んでこなかったら、大怪我する所だったんだぞ!」

腰をぬかした俺にリザードンさんは怖い顔で怒鳴りつけた

「恐らくは『アイアンテール』をやろうとしたのだろうが…
アレは力加減が難しい…素人がやれば、たちまちその強い衝撃で自分自身も吹き飛ばされるのだよ
慣れない内は不用意に撃つな!」

う、そうだったのか…

こんちくしょ~…ようやく使えたと思ったのによ
やっぱそう簡単にマスターできる代物じゃなかったって事か…

「とは言え、その若さで『アイアンテール』を使えるようになっただけでも大したものだ
完全に使いこなせるようになるまで精進を続けるがいい」

リザードンさんは一変、暖かい目に変わった

ぐ、ぐふふ…!
リザードンさんに「大したものだ」って言われたぜ
どうやら俺のしてきたすさまじい修行の数々は、決して無駄じゃなかったようだな!

ん?

ちょっと待てよ…
それはそうと、何でリザードンさんがここにいるんすか?

「うむ…。

じつは"君に会いたいという二人"がいてな。今、背中に乗せている

俺に会いたい二人…?



ま、まさか…!


期待に胸を膨らませていると、
リザードンさんの背中から"ピンクの二人"が飛び降りてきた

「ピィ!ププリン!!」

俺は思わず叫んだ

「あべべ~!チビすけの手紙読んで引っ越してきたよ~
大変だったねピチュー!」
「私らに何も言わずに引っ越すとか、いい度胸してるじゃない!」

ププリン…!ピィ…!
お前らも引っ越してきたんだな!このウェイブタウンに!

「勿論!《シルヴァー学園》への入学がかかってるって知ったら
パパもママもあっさりOKしてくれたよ~。」
「まぁたとえ断った所で、脅してでも首を縦に振らせたけどね!」

脅すって…お前は相変わらずだなピィ
しかし良かった…これで一緒に《シルヴァー学園》へ行けるぜ!


俺たちは互いの手を取り、再会を喜び合った

「そうだ、チビは?
チビすけは今どこにいる?一緒じゃないのか?」

俺はふとチビのことを思い出して二人に聞いた

「あべべ~。チビすけなら、今ハピナスさんの病院でぐっすり寝てるよ~。」
「アンタの手紙を少しでも早く届けるためって、あいつ

汗だくで飛び回ったんですって。それで、風邪ひいて入院しちゃったのよ」

なんてこった…!

チビすけ、俺のためにそこまで…

クソッ…!

チビがそこまで一生懸命頑張って俺の手紙を届けてくれたってのに、
俺は「逃げたんじゃないか」と疑っちまってた…

風邪ひいたチビの事も心配だが、自分の浅ましさにヘドが出そうだぜ

その時、どこからともなく「ピチューー!!」と
これまた"聞き覚えのある声"がし、俺とピィとププリンはいっせいに振り返った

サニーゴが向こうから猛スピードで走ってくる所だった


崖から落っこちた俺を必死に探し回ったのか
体中汗だくになりながら、息をゼェゼェ切らして今にも倒れそうな感じだ

「ハァハァ…ッ

よかった!無事だったんだねピチュー!」

まぁな…

"この人"が華麗にキャッチしてくれたおかげで助かったんだ

「この人…?


……。

Σリ…リザードーン!?
何でいるのさ!?」

サニーゴはようやくその存在に気づき、飛び上がるぐらい驚いた

「フン、なるほど…
あの晩ピチュー君をそそのかし、勝手に引っ越しさせたのは君だったのだな?」

リザードンさんは走って逃げようとした
サニーゴを持ち上げ、
背中に無理矢理乗せた。

「グランブル署長がたいそう激怒している…
是非とも私と一緒に《ポケットタウンの市役所》へ来て、詳しい話を聞かせてもらおうじゃないか。
何。心配するな…署長の鉄拳一発を食らうだけで済むだろう。」

流石のサニーゴも怯え、滝のように汗をダラダラ流した

「では私はもう行く…
三人とも、《シルヴァー学園》に行っても精進を怠らぬようにな」

待ってくれリザードンさん!
最後に、どうしてもアンタに伝えておきたい事があるんだ

「聞いてくれ…
あの日、俺の『入学許可証』を奪い去ったのはカプじいだったんだよ!
すっとぼけた顔して俺を陥れたんだ!あのクソジジイは!」

リザードンさんは表情一つ変えず、俺の話をただじっと聞いた

「あのコケコ爺が…?信じられんな
何故彼がそのような事をする必要があったのだ?」

知るかよ!
おまけに、カプじいはあの後どっかへ行方をくらましやがったしな

もし俺達が《シルヴァー学園》へ旅立ってる間にジジイがひょっこり家に帰ってきたら、
リザードンさんに問い詰めて欲しいんだ。
何故あんな事したのかをよ

「分かった…彼が戻ってきたら追及しておこう」

リザードンさんは踵を返すと
翼をバサバサと大きく羽ばかせて飛び立つ姿勢をとった

猛烈な風が吹き、周囲の木は揺れ、俺とピィとププリンは危うく吹っ飛ばされそうになった

「だがピチュー君…これだけは信じていい
彼が真に君を陥れるような事をするはずはない…。必ず何か"理由"があるに違いないのだ。」

リザードンさんは最後にそう言い残し、サニーゴと共に飛び去っていった



"理由"…ね

俺だって信じたいぜ
カプじいが俺を罠にはめたなんてウソだってよ

もしそこに"重大な理由"が隠されてるんだとしたら、それは一体何だ…?

「教えてくれよカプじい…アンタ今どこにいるんだよ…」

丘の上に立って遠くの海平線をじっと見据えながら
オレンジ色に燃える夕日の光に、俺はカプじいの"優しい温もり"を思い出していた







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