「ぐふ……どこだここは」
気がつくと俺はベッドに寝かされていた。
くそっ!頭がいてぇ……いったい何が起きたんだ
俺は失神する前の出来事を、必死こいて思い出そうとした。
そうだ俺は……
ピィ、ププリンと市役所の中へ潜入した……
んでグランブルに見つかって……
逃げる途中でバケツにつまづいて
あえなく窓から落っこち、目の前が真っ暗になったんだ。
俺は……助かったのか……?
「アローラ~!」
「ぐわ!?」
目の前に急にでかい物体が飛び込んできて、俺は飛び上がった。
「誰だきさまは!
かっ……カプじい?カプじいじゃねぇか!」
カプじいは何故か殻に籠っていて、
まるでヘンテコな置物みたいな姿でふよふよ浮いていた。
ったく、心臓が止まるかと思ったぜ!
このジイさんはいつもいつも俺が寝てる時に余計なマネしやがって
ほんっと自重しろよな!
カプじいはパカッ!と開くと急接近してきた。
「こりゃピチュー!!廊下を走ってはならんと言ったぢゃろう
芝生だから怪我せずに済んだものを……
そうでなかったら今ごろ、命が危うかったですぞ!」
くっ……
返す言葉も見つからない……
「とは言え、大した怪我もなくて良かった。安心しましたぞ。」
ぽんっ、とカプじいは俺の頭に手を置いた
その顔は笑っていた。
カプじい……
思わずすがりついた俺を
カプじいはその手で、そっと包み込んだ
3年前……惨めだった俺を包んでくれた時と同じように。
あん時からちっとも変わらない
大きくて優しい……カプ・コケコの手。
あぁ……いっそずっとこのまま抱かれていたいぜ
カプじいの手に包まれながら
俺の心は、ジイさんへの愛と安らぎの感情に満ち足りていた。
「おどれら、いつまでやっとんじゃ!」
不吉な声に俺の夢はぶち破られた
ドスのきいた渋い声……この喋り方……
強烈に聞き覚えがあるぞ。俺はおそるおそる「声の主」を振り返った。
「げぇ!!グランブル署長」
恐怖の大王が、すぐ横につっ立っている事に気づき俺は腰を抜かした。
それだけじゃない……
ハピナスさんにリザードン市長もいる
ベッドの横で、三人仲良くズラリと並んで立ってやがる
この空気……どう考えても穏やかな雰囲気じゃないぜ
ドシン!!と
グランブル署長が片足を踏み鳴らしたため俺はビクッとした
「おどりゃ~!市役所に忍び込んで盗み聞きとはええ度胸しちょるのぉ~!?
ワシも舐められたもんじゃ!このワルガキぃ~!」
ひいぃ~
アンタなんか誰も舐めたいとは思わねぇって!
署長が今にもゲンコツを振り降ろしそうだったので、俺は身構えた
「ふん!!病み上がりを叩く趣味はないけぇの
今日の所は見逃してやる……が、次に会う時はワシの拳が火を噴くけぇ!覚悟せいやぁ!」
署長は扉をぶち開け、
ドシン!ドシン!と部屋から出て行った
ふぅ……
俺は胸をなで降ろした。とりあえず命拾いしたぜ
「ピチュー君、体の具合はどうだ?」
リザードンさんが心配そうにきいてきた
俺は「平気です」と答えた
「それより、ここはどこなんですか?病院の中じゃないっぽいけど……」
俺はキョロキョロ見回した
「市役所の中にある私の部屋だ。
芝生で倒れていた君を、そこの彼女が運んできたのさ。」
リザードンさんは横のハピナスさんをチラリと見た
ハピナスさんはニッコリ優しそうに笑い、
俺に小さく手を振った
そっか……姉ちゃんが俺を助けてくれたんだな
どうもあんがとよ!
ハピナスさんはくすすと笑い、机に置かれたお盆とタオルを手に持ち
リザードンさんにペコリと頭を下げると、
その場から立ち去ろうとした
だが途中で「きゃあ!」とすっ転んで、
お盆の水を派手にぶちまけた
「大丈夫ですかな!?」とカプじいが駆け寄った。
「ごめんなさい!
ああっ、床がビショビショ……きゃ!」
ハピナスさんはずるっと足を滑らせ
今度はカプじいを巻き込んで、仰向けにスッテンコロリンした。
ナース帽子がぽろりと床に落ち
ハピナスさんは「いたた!」と頭をおさえている
履いていたナースシューズもかたっぽ脱げて裸足になってやんの。
あいかわらず、そそっかしい姉ちゃんだぜ。
カプじいに手伝ってもらい
ハピナスさんはやっとこさ扉から出ていった
部屋には俺とカプじい、それからリザードン市長だけが残された
「さてと……」
リザードンさんは重々しく口を開いた
「ピチュー君、ペリッパーから事情は聞いたよ
とんだ災難だったね。」
リザードンさんは腰の後ろに手を組み、紳士的なポーズをとった
後ろのカプじいが一瞬
ぴくりと反応したように思えた。
ん……いけねぇ!
そういや俺には、大事な目的があったはずだ
リザードンさんに頼んで、消えた俺の『入学許可証』を取り戻すって目的
すっかり忘れる所だったぜ
俺はさっそくその事を相談しようとした。
だが、俺が話すよりも早くリザードンさんが口を開いた。
「いいかい、ピチュー君。いかなる理由があったとしても、市役所へ勝手に侵入し
『島会議』を盗み聞こうとした……
その行為は断じて許されないルール違反なのだ。」
島……会議……
そうだ!!
リザードンさんの言葉でやっと思い出したぜ
今日は年に一回、ポケッ島のお偉いさんたちが集まって話し合う日だ
みんなはそれを『島会議』って呼んでて、
その内容は、絶対に外へ漏らしちゃいけない事になってる。
だとすると、市役所の門が閉ざされていたり
中に誰もいなかったのは……人払いされていたからだったのか
なんてこった……
俺もピィもププリンもそういうのには興味ないからすっかり忘れてたぜ。
……
ていうか郵便局にいた時に
ペリッパーさん、教えてくれりゃよかったじゃねぇか!
なーにが「市長は忙しいからねぇ」だよ!すっとぼけやがって~!
いや、お天気屋なあの人の事だから
素で忘れてたのかもしれん
最近なんだか『雨を降らせる』のがめちゃ上手になったって聞くしな
くっそぉ……バカだぜ俺は!
どうして今までその事に気がつかなかったんだ!
「悪いが」
俺が自分の間抜けっぷりに歯ぎしりしていると
リザードンさんはやや低い声で言った。
「忘れていたとは言え……君のしでかした事は重大な"ルール違反"だ。
規律を守れない君のような子のことだ。
もし学校でワザを教われば、いずれ問題を起こすかもしれない。」
リザードンさんはやや間をおくと、
最後にこう言った
「シルヴァー学園への入学……
諦めるがいい。」
な……な……
何なんだとーーー!!
ウソだろ!?冗談だと言ってくれよリザードンさん!
「もちろん君の友達、ピィとププリンも同様だ。
無断でここへ侵入し盗み聞きをした行為……見過ごすわけには行かない。」
リザードンはつめたく言い放った
「翌朝には……
彼らは"入学取消処分"を受ける事になるだろう。」
ふ……
ふざけるなよ……
俺はまだしも何故ピィとププリンまで!
あいつらは俺のために、一緒についてきただけじゃねぇか
確かに俺たちは市役所に忍び込みはしたが……それは仕方なかったからだ!
アンタに会おうとしたら、なぜか門が閉まってたからよ
別に何かを盗みたかったワケじゃないしな
それなのに入学を諦めろとか……見損なったぜリザードンさんよ
ずっと俺たち子供の味方だと信じてたのによ!
アンタにはポケモンとしての『情』ってもんが無さすぎるぜ
そうだ……カプじい!
カプじいもこのふざけた野郎に何か言ってくれよ!
俺はすがるようにカプじいを見た
だが、カプじいは入り口の扉の前で黙りこくっていて、
何も答えてくれなかった。
「カプじい……」
お前らふざけるなよ……
俺とピィとププリンは今まで
どんだけ学校に行ける日を夢見てきたと思ってるんだよ
それなのに俺だけじゃなくて、
あの二人までが入学できなくなっちまうなんて……
くそっ、最悪だ……
これからあいつらに
どんな顔すりゃいいんだよ……
俺は頭の中が真っ暗になり、崩れ落ちた。
《次のチャプター》へ
《前のチャプター》へ
気がつくと俺はベッドに寝かされていた。
くそっ!頭がいてぇ……いったい何が起きたんだ
俺は失神する前の出来事を、必死こいて思い出そうとした。
そうだ俺は……
ピィ、ププリンと市役所の中へ潜入した……
んでグランブルに見つかって……
逃げる途中でバケツにつまづいて
あえなく窓から落っこち、目の前が真っ暗になったんだ。
俺は……助かったのか……?
「アローラ~!」
「ぐわ!?」
目の前に急にでかい物体が飛び込んできて、俺は飛び上がった。
「誰だきさまは!
かっ……カプじい?カプじいじゃねぇか!」
カプじいは何故か殻に籠っていて、
まるでヘンテコな置物みたいな姿でふよふよ浮いていた。
ったく、心臓が止まるかと思ったぜ!
このジイさんはいつもいつも俺が寝てる時に余計なマネしやがって
ほんっと自重しろよな!
カプじいはパカッ!と開くと急接近してきた。
「こりゃピチュー!!廊下を走ってはならんと言ったぢゃろう
芝生だから怪我せずに済んだものを……
そうでなかったら今ごろ、命が危うかったですぞ!」
くっ……
返す言葉も見つからない……
「とは言え、大した怪我もなくて良かった。安心しましたぞ。」
ぽんっ、とカプじいは俺の頭に手を置いた
その顔は笑っていた。
カプじい……
思わずすがりついた俺を
カプじいはその手で、そっと包み込んだ
3年前……惨めだった俺を包んでくれた時と同じように。
あん時からちっとも変わらない
大きくて優しい……カプ・コケコの手。
あぁ……いっそずっとこのまま抱かれていたいぜ
カプじいの手に包まれながら
俺の心は、ジイさんへの愛と安らぎの感情に満ち足りていた。
「おどれら、いつまでやっとんじゃ!」
不吉な声に俺の夢はぶち破られた
ドスのきいた渋い声……この喋り方……
強烈に聞き覚えがあるぞ。俺はおそるおそる「声の主」を振り返った。
「げぇ!!グランブル署長」
恐怖の大王が、すぐ横につっ立っている事に気づき俺は腰を抜かした。
それだけじゃない……
ハピナスさんにリザードン市長もいる
ベッドの横で、三人仲良くズラリと並んで立ってやがる
この空気……どう考えても穏やかな雰囲気じゃないぜ
ドシン!!と
グランブル署長が片足を踏み鳴らしたため俺はビクッとした
「おどりゃ~!市役所に忍び込んで盗み聞きとはええ度胸しちょるのぉ~!?
ワシも舐められたもんじゃ!このワルガキぃ~!」
ひいぃ~
アンタなんか誰も舐めたいとは思わねぇって!
署長が今にもゲンコツを振り降ろしそうだったので、俺は身構えた
「ふん!!病み上がりを叩く趣味はないけぇの
今日の所は見逃してやる……が、次に会う時はワシの拳が火を噴くけぇ!覚悟せいやぁ!」
署長は扉をぶち開け、
ドシン!ドシン!と部屋から出て行った
ふぅ……
俺は胸をなで降ろした。とりあえず命拾いしたぜ
「ピチュー君、体の具合はどうだ?」
リザードンさんが心配そうにきいてきた
俺は「平気です」と答えた
「それより、ここはどこなんですか?病院の中じゃないっぽいけど……」
俺はキョロキョロ見回した
「市役所の中にある私の部屋だ。
芝生で倒れていた君を、そこの彼女が運んできたのさ。」
リザードンさんは横のハピナスさんをチラリと見た
ハピナスさんはニッコリ優しそうに笑い、
俺に小さく手を振った
そっか……姉ちゃんが俺を助けてくれたんだな
どうもあんがとよ!
ハピナスさんはくすすと笑い、机に置かれたお盆とタオルを手に持ち
リザードンさんにペコリと頭を下げると、
その場から立ち去ろうとした
だが途中で「きゃあ!」とすっ転んで、
お盆の水を派手にぶちまけた
「大丈夫ですかな!?」とカプじいが駆け寄った。
「ごめんなさい!
ああっ、床がビショビショ……きゃ!」
ハピナスさんはずるっと足を滑らせ
今度はカプじいを巻き込んで、仰向けにスッテンコロリンした。
ナース帽子がぽろりと床に落ち
ハピナスさんは「いたた!」と頭をおさえている
履いていたナースシューズもかたっぽ脱げて裸足になってやんの。
あいかわらず、そそっかしい姉ちゃんだぜ。
カプじいに手伝ってもらい
ハピナスさんはやっとこさ扉から出ていった
部屋には俺とカプじい、それからリザードン市長だけが残された
「さてと……」
リザードンさんは重々しく口を開いた
「ピチュー君、ペリッパーから事情は聞いたよ
とんだ災難だったね。」
リザードンさんは腰の後ろに手を組み、紳士的なポーズをとった
後ろのカプじいが一瞬
ぴくりと反応したように思えた。
ん……いけねぇ!
そういや俺には、大事な目的があったはずだ
リザードンさんに頼んで、消えた俺の『入学許可証』を取り戻すって目的
すっかり忘れる所だったぜ
俺はさっそくその事を相談しようとした。
だが、俺が話すよりも早くリザードンさんが口を開いた。
「いいかい、ピチュー君。いかなる理由があったとしても、市役所へ勝手に侵入し
『島会議』を盗み聞こうとした……
その行為は断じて許されないルール違反なのだ。」
島……会議……
そうだ!!
リザードンさんの言葉でやっと思い出したぜ
今日は年に一回、ポケッ島のお偉いさんたちが集まって話し合う日だ
みんなはそれを『島会議』って呼んでて、
その内容は、絶対に外へ漏らしちゃいけない事になってる。
だとすると、市役所の門が閉ざされていたり
中に誰もいなかったのは……人払いされていたからだったのか
なんてこった……
俺もピィもププリンもそういうのには興味ないからすっかり忘れてたぜ。
……
ていうか郵便局にいた時に
ペリッパーさん、教えてくれりゃよかったじゃねぇか!
なーにが「市長は忙しいからねぇ」だよ!すっとぼけやがって~!
いや、お天気屋なあの人の事だから
素で忘れてたのかもしれん
最近なんだか『雨を降らせる』のがめちゃ上手になったって聞くしな
くっそぉ……バカだぜ俺は!
どうして今までその事に気がつかなかったんだ!
「悪いが」
俺が自分の間抜けっぷりに歯ぎしりしていると
リザードンさんはやや低い声で言った。
「忘れていたとは言え……君のしでかした事は重大な"ルール違反"だ。
規律を守れない君のような子のことだ。
もし学校でワザを教われば、いずれ問題を起こすかもしれない。」
リザードンさんはやや間をおくと、
最後にこう言った
「シルヴァー学園への入学……
諦めるがいい。」
な……な……
何なんだとーーー!!
ウソだろ!?冗談だと言ってくれよリザードンさん!
「もちろん君の友達、ピィとププリンも同様だ。
無断でここへ侵入し盗み聞きをした行為……見過ごすわけには行かない。」
リザードンはつめたく言い放った
「翌朝には……
彼らは"入学取消処分"を受ける事になるだろう。」
ふ……
ふざけるなよ……
俺はまだしも何故ピィとププリンまで!
あいつらは俺のために、一緒についてきただけじゃねぇか
確かに俺たちは市役所に忍び込みはしたが……それは仕方なかったからだ!
アンタに会おうとしたら、なぜか門が閉まってたからよ
別に何かを盗みたかったワケじゃないしな
それなのに入学を諦めろとか……見損なったぜリザードンさんよ
ずっと俺たち子供の味方だと信じてたのによ!
アンタにはポケモンとしての『情』ってもんが無さすぎるぜ
そうだ……カプじい!
カプじいもこのふざけた野郎に何か言ってくれよ!
俺はすがるようにカプじいを見た
だが、カプじいは入り口の扉の前で黙りこくっていて、
何も答えてくれなかった。
「カプじい……」
お前らふざけるなよ……
俺とピィとププリンは今まで
どんだけ学校に行ける日を夢見てきたと思ってるんだよ
それなのに俺だけじゃなくて、
あの二人までが入学できなくなっちまうなんて……
くそっ、最悪だ……
これからあいつらに
どんな顔すりゃいいんだよ……
俺は頭の中が真っ暗になり、崩れ落ちた。
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